私はボンドからRC-P90を受け取り、再度四挺同時の射撃を行う、が――
飛来する男を避けるように、弾の方ががそれていき、一つとして命中しない。
そのまま眼前へと迫り、男はその手の一振りで私とボンドの手から銃を弾き飛ばした。
理不尽なまでに圧倒的で、あまりにも悠然としたその動きに体がはりついたようになる。
黒衣の男は、圧倒される私の横を通り過ぎ、なおも銃器を取り出し抵抗を試みるボンドの首を左手で掴むと
懐から右手で拳銃を――あれはワルサーP99だ――取り出し、ボンドのこめかみに当てると――そのまま、引き金を弾いた。
タン、という場違いなほどに乾燥した音が響き、雨の中にボンドが倒れる。
男は拳銃を片手にこちらを向いた。衣装と共にかけなおされたそのサングラスからは、何一つ表情が読み取れない。
「あ、あ――――ああああああぁぁぁっ!」
私は弾かれたように――それこそ、我が身を弾かれたように、絶叫し、男へと殴りかかった。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
全力のラッシュを、男は最初の激突と同じように、片手で全て払いのける。
――至極、つまらなさそうに。
男は、殴りかかる拳ごと、私を優に10mほど払い飛ばした。
その手に力は全くこめられていない。飛ばされる私も、力で飛ばされたのではない。
それはまるで、合気道の有段者に投げ飛ばされたかのよう――――
飛ばされた先に、最後のフラガラックが入ったバッグが投げられた。
私はそれを取り出し――乾坤一擲、フラガラックの真名を開放する。
最後のフラガラックを、男は手をあげることすらせず空中で停止させた。
光を失った剣が、地面へと落ちる。
私はそれでも、連続したフラガラックの使用に焼け付く手にも構わず、男に殴りかかった。
しかし男は飽いたように、今度はすぐに私を払い飛ばす。
立ち上がろうとする私の前に、男は既に立ちふさがっていた。
「――もう勝負はついた。あきらめろ」
雨の中、倒れたまま男を見上げて私は口を開く。
「……貴方は本当にキャスターのサーヴァントですか?この宝具の効果といい、どうにも解せません」
「イリヤスフィールに仕えるキャスターのサーヴァント、ネオだ」
男は死にゆく者への手向けとばかりに、その真名を名乗った。
「普段は戦闘中に、このような無駄口は叩かないのですが……どうやら彼の饒舌がうつったようです
……ネオ、貴方達の敗因は二つあります。」
ネオは怪訝な顔をするが、私は構わず続ける。
「一つは、貴方は私のサーヴァントを侮っている。彼は銃器を自由に取り出し、また、使用していますが
それは彼のスキルの一つにすぎません。彼は、彼が持つ二つの宝具を、未だどちらも見せていない。
もう一つは――貴方は忘れている。貴方は近接戦闘を得意とする変則的なキャスターであり、同時に道具作成として銃器を生み出し
かつ陣地作成として強力な固有結界も保有する、キャスターの本分としてもこの上なく優秀なサーヴァントのようですが……
彼も、クラス通りのアサシン。たとえ強力な重火器による遠距離攻撃を得意としようと
闇にまぎれ、気配を遮断し、例えどのような敵であろうと『ただ一発の弾丸』でそれを仕留める――――暗殺者です」
サングラス越しに、ネオの瞳が驚愕に見開かれる――そして、一発の銃声。
彼の右胸に、フラガラックで貫かれたかのような黒点が出来ている。血は流れ出ない。
サーヴァントの急所であり、即死させうるただ一点、霊核を確実に破壊した証拠だ。
『――隠された黄金銃――』
ただ一度だけ撃つことのできる、的中すれば確実に対象を死に至らしめる宝具である、黄金の弾丸を放ったボンドが
ネオが倒れたことによって開けた視界の向こう、これ見よがしに立ち上る一筋の硝煙のその更に彼方、黄金の銃を構えて立っていた。
血どころか、汚れ一つない黒いタキシード――そしてあの、力強い笑みを浮かべて。
「何故――そのサーヴァントは――死んだはず」
世界が蛍光緑色の粒子に崩れ落ち、元の公園と姿を戻しつつある中
少し離れた位置に立っているイリヤスフィールが驚きに声を漏らした。
「知れたこと――不意をつくことに特化した、特殊発動型のもう一つの宝具です」
ボンドが私の言葉をつぐ。
「ひょっとしたら、聞いたことがあるんじゃないか?――『007は二度死ぬ』――」
これらが、アサシンであるジェームズ・ボンドが持つ二つの宝具。
相手を一撃で死に至らしめる『黄金銃』と、一度だけの蘇生を可能とする『You
Only Live Twice』(007は二度死ぬ)
この二つを最大限に有効使用することで――かろうじて、私達は勝利を手にした。
世界が完全に元の暗い公園に戻り、倒れた私に手を貸そうと近寄ったボンドの後ろに
――――皮のジャンパーを着た長身の男がいるのが見えた。
声を上げる間もなく。
響く銃声の中、耳障りなしわがれた声を、私は最期、耳にする。
「呵々……街中でこれほどの騒ぎを起こすとはの。
その上に固有結界の発動、ワシが周囲に人払いの結界を布いていなければ衆愚への露呈は避けれなかったろうて。
まぁその代価として、サーヴァント二体の消滅と、マスター二組の脱落。
加えてアインツベルンの聖杯がこの手に入るとすれば……悪くはないと言ったところかの……呵呵呵呵……仕留めよ、アーチャー」
視界は赤く。やがて黒く。
執拗に私達を撃ち続けるその耳障りな銃声が、聞こえなくなったころ。
流れる血のせいではない。
私の上に、銃弾から私を守るように、倒れこんだ私のサーヴァントの、その温もりに。
ゆっくりと目を閉じて――私は――
――――DEAD END.
(本家Fateキャラの)サーヴァント道場へ行きますか?
1・はい(道場後、別視点本編へ)
2・いいえ(別視点本編へ)