■ interlude


自分を呼び出すマスターは狂っている。

そうセイバーは考える。

英霊の座にある自分の記録には、何度か聖杯戦争に出た記憶がある。
それ以外でも―― 生前『マスター』を二人、持つことがあった。
一人目は自分の手で殺し、火口へと落とした。二人目を野心の果てに己が手にかけようとしたとき、その逆襲により命を落とした。
もとよりマスターに恵まれ得ない性質であることは見えている。
生前の二人はともかく、その後のマスターはそれもそのはず。
遠い昔、遥か彼方の銀河系、観測しえぬ場所への人々の幻想より記録されたこの身を呼び出す媒介と成り得るものは、この星に存在しない。
故に、狂ったこの身を呼び出しえるのは、同じく狂ったマスターのみ。

しかし、今回のマスターは今までとはあきらかに違った。
このマスターは、自分を召喚したその日のうちに二回、確実に仕留めえた敵サーヴァントとの戦闘を邪魔している。
そのうち一回では令呪を消費した挙句その場で気を失い、サーヴァントであるこの身はおろか、彼自身の命まで危険に晒した。

理解できなかったその行動の理由。
自分のサーヴァントとしての特徴や真名を告げ、次いでマスターである彼の半生を聞き出し、それがようやく解った。

やはり――自分を呼び出すマスターは狂っている。

全ての人を救う、正義の味方。そんなもののために、彼は自らの命まで投げ出したのだ。

聖人気取りどもが揃うジェダイでも、そのような甘えた理想を掲げるものはいなかった。
戦略上、100を救う為に1を見殺す必要があるのなら、それを躊躇いなく行う。
それができるのがジェダイであり、そのような行動に心の迷いを生じさせない為の、赤子からのある種宗教じみた精神教育だ。

だが、幼いころからの精神的な英才教育が為されていないため
ジェダイである自分は暗黒面に狂ったのだ、などという子供じみた責任転嫁を起こすつもりは毛頭ない。
自分は、こうだ。こうであるから、自分として完結している。
その在り方そのものに疑問を挟む余地など、もはやどこにも存在しない。ただ――――

――――ただ、人は死ぬ。

母が殺されたとき、自分は、万人に訪れるその唐突な真実を、初めて確かに自覚した。
その残酷さを受け止められず、怒りのままに、悲しみのままに、その場にいた異種族どもを老若男女問わず皆殺しにした。
そうして闇を自覚し、新たな師に仕え、妻を殺し、かつての師を殺し、かつての同胞を殺し
やがて野望に狂い、闇の師すら斬ろうとし、そこで潰えた。

……このマスターにも、やがてそのときがくる。
現実の残酷を理解し、愛するものの死を受け止め、やがて以前の自分を破壊したその死に、無感動になる瞬間が必ずくる。
無感動にならなければ、強い感情に身を染めなければ
なにものも混ざらぬ、決して折れることも揺れることもない黒い鉄にならなければ、在ることができなくなる瞬間が必ずくる。
それは自分の在り方と、対極であるが故に同一だ。

そう――このマスターも、やはり狂っている。
あと一押しで、こちらから最も遠いこちらへと来るほどに。

そう考えれば、それを眺めるのもまた、一興だろう。

歩んできた道はぬかるむ程の血に塗れている。
なぜならこの身は、既に狂っているのだから。


■ interlude out



【Interlude】『Back to The Fate』

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