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……ボクは、衛宮に聞かなければいけないことがある。
それは、この家に来る道中で幾度も頭をもたげた。
それでも自尊心が邪魔をして、口にすることができなかった。
結果、過剰に道化を演じるぐらいでしか、自分を誤魔化すことはできなかった。
……だが、それもここまでだ。
ライダーは桜の元へ行き、セイバーは道場に行っている。
――今しかない。
衛宮は、台所でおかゆを作っていた。
「……衛宮、ちょっといいか」
こちらの、つまったものを吐き出すような声が伝わったのだろう
衛宮は調理の手を止めてコンロの火を落とすと
「俺もちょうど、慎二に話があったんだ……いいぞ」
こちらを向いて、そう言った。
「衛宮、オマエいつから……いや、いつから、なんて聞いても意味がないね。
お前は……魔術師だったんだよな。どうしてボクに何も言わなかったんだ?
ボクが『マキリ』だってことを、知ってたのか?遠坂のことは?」
衛宮はそれを聞くと、「ついにこのときが来たか」とでも言うような顔をした。
流石に鈍いコイツでも、それぐらいには思い至っていたのだろう。
「いや、俺は……慎二や、遠坂……それに、桜のことは何も知らなかった。
でも、今まで一言も何も言わなかったのは確かだ。俺は……衛宮士郎は、魔術師だ。黙ってて、すまなかった」
爆発するように、狂おしいほどの憎悪が胸を灼いた。
ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。
ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。ナゼだ。
ナゼ、ボクは、魔術師じゃ、ない。
魔術師の家系に生まれた。魔術師の祖父を持った。魔術師の父を持った。それを誇りにした。
自分は凡人とは一線を画して、圧倒的に、完璧に、特別な存在なのだと、疑いもしなかった。
だがボクは魔術師じゃなかった。
臓硯は魔術師だ。遠坂も魔術師だ。桜も魔術師だ。そして、何も、何も知らないコイツも――――
だがボクは魔術師じゃなかった。
血の滲む努力をした。生まれてこの方、何をしても努力一つせず人より秀でて生きてきたボクが。
遺さぬ父を憎み、応えぬ祖父を憎み、得りうる妹を憎み、幾つもの眠れぬ夜を、理解できぬ魔道書と共に過ごした。
理解は増す。魔術回路を持たぬ身ながら、魔道へと一歩ずつ足を沈めていく。そして分かる。
だがボクは魔術師じゃなかった。
狂おしい。この身を裂いて魔術が得られるのならば、いくらでも裂こう。
捧げよと言われれば、何でも捧げよう。この身に魔術を。この世の誰にも、ボクを見下させはしない。
だがボクは魔術師じゃなかった。
怨嗟の嗚咽を殺した。憎悪の叫びを殺した。殺戮の雄叫びを殺した。
ボクは――――
1・衛宮を殺そう。そう決心した。
2・魔術ではない、何か強い力を欲した。
3・何もかも馬鹿らしくなり、笑った。