「……衛宮、よく今まで生きてこれたもんだね。お前」

自分が唯一まともに行使できる強化の魔術を実演してみると、慎二はそう言った。

「本当にそのやり方で、今まで毎日毎晩鍛錬と称してずっとやってたの?」

慎二が蔵に転がる俺が強化・投影した物体を眺めながら言う。

「親父が死んでからずっと……うん、毎日やってたかな」

「……衛宮のこと、前から『ひょっとして馬鹿なんじゃないのコイツ』って思ってたけど……
 やっぱり訂正するよ。衛宮は超馬鹿だね」

俺は流石に慎二のその物言いにムッとして、言い返した。

「なんだよ、確かに俺が魔術を見てくれって言ったのが最初だけど、そっちだって
 『これから先の戦いで衛宮がどれぐらい魔術を使えるのかは知る必要があるね』
 って言ったから、俺がやってみせたんじゃないか、いくらなんでもそんな言い方……」

「あのさ、衛宮」

そう言って慎二が蔵に転がる道具から、俺の顔へと視線を移した。

「……ボクには魔術回路がない。加えて刻印も受け継いでないから、自分の力のみで魔術を行使することはできない。
 それでもこの程度のことは分かるよ――あのさ、衛宮。これ見たのが一昨日ぐらいだったら、ボクはキミを殺してたと思うよ」

その慎二の顔に、常にたたえている笑みのようなものが欠片もないのを見て、俺は黙りこくる。

「キミの魔術の使い方は無茶苦茶だ。毎晩やってたのは鍛錬じゃなくて死亡遊戯だね。
 まぁ責めたってしょうがないけど――これから先、命が惜しかったら魔術は一切使わない方がいいよ」

「っ……一切、って……でも慎二今まではなんとか……」

「そこのワカメ頭の言い分が正しそうだな。事実、僕に対する魔力供給は今までほとんどなかったと言っていい」

突然の声に振り返ると、蔵の入り口に寄りかかるようにして、いつの間にかセイバーが立っていた。

「今まではフォースで動力を確保していた。無論、マスターからの魔力供給があった方が好ましいが
 僕に限って言えば、なくても問題はない。ただし――――」

そう言ってセイバーは蔵全体を見回した。

「その体たらくで、僕をどうやって呼び出したのかは見当もつかないな」

「……ふん、なるほどね。衛宮、お前は魔術を親父さんに習ったんだよね?
 だったら疑問の余地なく、これで決まりだ。お前の親父さんは前回の聖杯戦争にやはり参加していた。
 そのときに使ったまま残されてた召喚陣を、お前がたまたま作動させてセイバーを呼んだんだ」

親父が前回の聖杯戦争に参加したかどうかは、朝の話し合いの段階では、まだ確定してはいなかった。
しかし、慎二の言ったとおりなら、すんなり行く部分が多い。おそらく……

「やっぱり、親父は……」

俺の親父は前回の聖杯戦争に参加し――おそらくは優勝して、その後も生き続けている。
だが、慎二の父は――

「別に、気にしなくていいよ。魔術師なんてそんなもんだ。ボクだって、気にしてない。
 そうだな、まずは桜を呼んでみようか。お前の魔術のコト、一応聞いておいた方がいいかもしれないね」

そう言って慎二は、桜を呼びに母屋へと帰っていった。
数分、考えを落ち着ける時間をお互いが必要としたのを感じ取っての行動なのかもしれない。
そこに、セイバーが唐突とも思えるタイミングで話しかけてきた。

「マスター」

「……なんだよ」

「夢は見たか」

「一回だけ。あのスピード狂の子供がお前だろ?」

「くっ、はっははは……そうだな。その通りだ――その様子だと、まだ肝心なところまでは見ていないらしい」

「やんちゃでも、素直で利発な子だったじゃないか。
 今のお前からは想像もつかないような」

セイバーの自嘲が止んだ。

「――――まあいい。最後まで見ろ。
 今までに僕を呼んだマスターは皆、お互いの過去を知ろうとなどしなかったが……
 お前には少しだけ興味がある。今までにはないパターンだからな」

「分かってる。それを見て、改めて組むかどうか決めろって言うんだろ?
 あと、ずっと気になってたんだけど」

そう言って俺はセイバーの方をしっかりと見る。

「何度も言っただろ、俺の名前は衛宮士郎。
 『お前』じゃなくて名前で呼んでくれよ」

マーティと名前で呼び合っていることもあり、俺は真面目にそう言ったのだが、

「仰せの通りに、マスター」

セイバーは、鼻で笑うようにしてそう返したのだった。



【Interlude】『star light saber -blue- U』

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