新都まで来ているのだ。綺礼のヤツに服を借りよう。
アイツに借りを作るのは、ブラック印の消費者金融に大金を借りるより気が進まないが
『西洋騎士と女子高生、というワゴンに眠っているアダルトビデオのタイトルのような光景を繰り広げつつ
男物の服を物色し、かつお買い上げ。男性用トイレの中で着替えるランサーを、その前で待つわたし』
なんて状態を想像しただけで、自分の葬式に誰が来て、誰が泣いてくれるかを考えそうになるのだからしょうがない。
かといって、人通りの多い駅前とはいえランサーをそこらに置いて一人で行動するのは危ない。
令呪も残り二回。
宝具の効果により重要性は低いとは言え
「襲われれば令呪で呼べばいいや」などと、気軽に考えるわけにはいかないのだから。
教会まで道のりの間は、わたしはランサーから最低4mの距離を置くことにした。
ランサーとの信頼ゲージがみるみる減っていくような気がしたが、気にしないことにする。
「……我輩の好感度が下がると、ランサールートに入れなくなるぞ」
「元からあるわけないじゃない!
……ってあぁもう、話しかけないでくれる!?」
喋っていると、段々漫才になってきてしまう。
これは相性が良いのだろうか、悪いのだろうか……。
■
ようやく目的地についた。荘厳にそびえる冬木教会。
わたしにとってここは、綺礼の居城というイメージが強すぎて、不吉なイメージが強いのだが
それでも坂の上に位置するこの白い教会は、やはり神々しい雰囲気をもっていた。
「……ここが冬木教会か」
「そうよ。で、私の師匠でもある腐れ神父の言峰綺礼がいるところ」
ランサーの言葉にわたしがそう返したとき、静寂であるべき教会の前の広場に似つかわしくない
聞き覚えのある、不吉なエンジン音が唸り出した。
……ドルンドルンドルンドルンドルドルドルドルドドドドドドド……
「……マスター、どうやら着替えの前に一仕事ありそうだな」
ランサーはそれまでと変わらず、減らず口を叩いた。
しかし、レイピアを引き抜き、音のする方向を見つめるその顔は、戦士のそれへと切り替わっていた。
「そうね、ランサー。
そろそろ、ここで名誉挽回するチャンスなんじゃないかしら?」
……チュイイイイイイイィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーンン!!
チェーンソーの駆動音を唸らせ、白いホッケーマスクをかぶった男が、教会の屋根から飛び降りてきた。
轟音に混じり、着地音が地面を響かせる。舞い上がる砂埃の中、石畳に亀裂を入れ、男の殺意がこちらに向けられた。
ランサーが一歩踏み出し、わたしの前に立った。
彼自身の手で鍔広の羽つき帽子が投げ捨てられ、宙を舞う。
「違うな、マスター。元から我が名誉は傷ついてなどいない。
御身を守れるか否か。それだけが、我輩の名誉の在り方なのだよ」
構えたレイピアを上向きに立て、顔の前へと寄せた後、刀をしまうように一旦腰の横へとレイピアを戻した。
再び半身を向けると、半円を描くようにして、レイピアを男の方へと突き出す。
描かれた半円の軌道は美しく、下弦の月を想起させる。
その仕草はあまりに芝居じみていたが、同時にあまりに自然すぎた。
幾度も繰り返され、その果てに完成された、完全な、完璧な動き。
その仕草が示すものは、決闘の開始、戦士の決意、騎士の誇り。
繰り返された決闘というその事実だけが、静かに彼の不敗を証明する。
「来い、バーサーカー。これから召し変えなのでな、丁度良い。
――――せめて、我輩に汗ぐらいはかかせてみせよ」
狂った戦士は言葉を持たず、突進を持ってそれに応える。
そして、打ち合う剣と鋸の音が再戦の開始を告げた。
■
サーヴァントでありながら、無差別に人を襲う連続殺人鬼と成り果てた
バーサーカーを見つけ出し、戦いに相応しい広所として、学校の校庭へと移動。
激突した、というのがあの日の戦いの経緯だ。
そのときは衛宮君が現れ、排除の対象を変えたバーサーカーによって、戦いは中断された。
中断されるまでの戦闘、それと同じ光景が今も眼前で繰り広げられている。
手数、体捌き、位置取り、全てにおいてランサーがバーサーカーを圧倒的に上回っていた。
事実、ランサーのレイピアは幾度もバーサーカーを貫いている。しかし。
「――――くっ」
バーサーカーはその刺し傷を物ともせず、チェーンソーを振り回す。
そればかりか、振り回したまま一回転し、傷口が視界から一瞬消えただけで、全ての傷が癒えている。
否、全ての傷が、元から無かったかのように消え去っている。
……デタラメだ。これは宝具の効果と思って、まず間違いない。
当てても滅しえぬ攻撃を繰り返す槍兵、当たらぬ攻撃を繰り返す狂戦士。
だが、それは互角ではない。
さて――――
1・秘蔵の宝石の一つをもって、ランサーを援護する。
2・ランサーに任せる。
3・教会に駆け込み、言峰綺礼に加勢を頼む。