幾度目かのバーサーカーの斬撃を避け、ランサーがこちらへと飛び退いた。
声を出すことなく、お互いの思考を交差させる。

<援護のタイミングを見計らっているようだが、マスター>

<……ええ。宝石を使えば、サーヴァントと言えど強力な対魔力が無い限り
 一時的に行動不能にさせるぐらいはできるはずよ。幸い、わたし達には合図が必要ないわ。次の――>

<いや、いい>

<――っ――って、アンタ自身がチームワークが不可欠だって……!>

<この程度で主の助けを必要とされるサーヴァントと思われても、面白くないのでな。見ているがいい>

言うが早いが、いや、伝えるが早いが、ランサーは再びバーサーカーへと突撃する。

地面を一蹴りするだけで、ランサーはバーサーカーとの数mもの距離を詰めた。
かと思うと、その動きを瞬時に止め、相手を翻弄するかのようにまた別の方向に向けてその神速を発揮する。
ここに至って、間違いなくランサーは最速の英霊と言えた。だが――――

ただの突きでは、バーサーカーの宝具を超えられない。
力量ではない、相性の問題なのだ。一瞬の火力さえあれば、それで終わるはずの相手。
だが、その一瞬の火力を持つ宝具が――――ランサーには、存在しない。

次第にランサーは攻撃の手を休め、防戦一方となる。
鋸の刃をこそ受けないものの、紙一重で相手の嵐のような斬撃を避ける姿は、いかにも頼りない。

<ランサー!>

わたしの呼び声に応えるように、ランサーが叫んだ。

「――――アン!」

バーサーカーの残撃を避けて飛び退いたランサーが、4mほど離れた距離から、瞬時にバーサーカーを突いた。
狙ったのは、バーサーカーの右目。寸分の狂いもなく、レイピアの切っ先がそれを抉る。

「――――ドゥ!」

猛りの咆哮を上げ、バーサーカーのチェーンソーが振り回される。
荒れ狂うその合間をぬって、またもランサーのレイピアが、今度はバーサーカーの左目を抉った。

「――――トロワ!!」

瞬間。ランサーの半身がこの世から消え去った。
こちらに向けているバーサーカーの前面が真っ赤に染まり
どう、と音をたてその巨体が倒れたのを見て、わたしはその意味をようやく理解する。

――見えなかったのだ。単純に速すぎるあまり、ランサーの肩から先が、わたしには残像はおろか全く見えなかった。
突きという点の攻撃でもなければ、斬りという線の攻撃でもない。
あれはもはや、面の攻撃だ。宝具も糞もない、単純な、だが究極の滅多刺し。
ただそれだけで、ランサーは不死のサーヴァントを打倒して見せた。

「……無茶苦茶な」

「少々無骨すぎるきらいもあるがね。
 ……まぁ、これはこれで悪くはないとは思わんかな?」

そういってこちらを振り向いたランサーの背に、突如幾つもの黒鍵が襲いかかった。
ランサーはわたしと視界を共有していると言っても過言ではない。
その全てを手にしたレイピアで切り払い、わたしの横へと引いた。

「……ふむ。流石にバーサーカーだけでは荷が重かったようだな」

「――アンタ――」

見開かれたわたしの目の先には――――黒衣の神父が、超然と立っていた。

「師弟対決と行くか、凛。立てバーサーカー」

あきらかな致命傷と思える傷を受けたバーサーカーが、その体を起こす。
倒れたときに出来たほんのわずかな死角、ただそれだけで、抉られた眼を含む傷のほとんどが治癒していた。
あまりの異常にたじろぐわたしを見透かしたように、綺礼が――――言峰綺礼が、その謎に端的に答える。

「術者が近くにいることで、供給されている何らかの力が使い魔を強力にすることがある――
 この程度のことは、教えてあったはずだと思ったがな」

「……マスターとしての宣戦布告として受け取って良いのね、それは?」

綺礼が袖をまくりあげ、左腕の令呪をあらわにする。

                   、 、 、 、 、
「この通りだ。行くぞ、凛。私を愉しませてみせろ」

その言葉はなにか――この男に似つかわしくない――わたしは、ひどい違和感を覚えた。

……だが、それを追求している暇はない。



1・言峰はランサーに任せ、完全に回復したわけではないバーサーカーを燃やし尽くす。

2・マスター同士の勝負を挑む。

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