「最後に一つ、試しておかねばならないことがあるな。
お前の右腕を断つと、ランサーの右腕が落ちた。お前の左手を断つと、ランサーの左手が落ちた。
さて、その逆はどうなのか――――」
……ヤメロ。ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ……!
「――――そうだ、その顔だ……!
絶望しろ。哀願しろ、凛。そして――その恐怖を、私に見せろ……!」
綺礼がわたしのあごを持ち、顔を上げさせた。
わたしの目に、かすれる景色のその中に、ランサーが映る。
それだけで、全てが伝わった。
<すまない――我輩はまた『貴女』を護れなかった――>
折れなかった心が、緩まなかった涙腺が、その一言に悲鳴をあげる。
――――そのとき。
バーサーカーのすぐとなり、伏せるランサーのやや上の空間に、青い電光が走った。
わたしの横に居るセイバーが、異常に気づき、みじろぐ。だが間に合わない。
次の瞬間――――
何もない空間から一台の車が現れ、バーサーカーを跳ね飛ばし、空中に炎の線を描いた。
■
「ジャスト一分、過去へのタイムトラベルか――ギリギリ間に合ったね……行くよ!」
そう声をあげた慎二に続いて、俺、桜、セイバー、マーティがデロリアンから降りた。
電話の繋がらない遠坂を探して辺りを探し歩き
デロリアンで教会にたどり着いたときは、既にほんの少しだけ遅かった。
辺り一帯の魔力の乱れから、一刻を争うとデロリアンで教会の上空まできたところで
ランサーの首へ、バーサーカーのチェーンソーが振り下ろされたのだ。
と同時に、遠坂の魔力が完全に途絶えた。
遠坂の死に絶望しかけた車内において、しかしマーティだけがあきらめてはいなかった。
その場でデロリアンによるタイムトラベルを行い、一分前の過去へと飛ぶと同時に
デロリアンの位置を教会上空からバーサーカーへの眼前へとずらしたのだ。
結果、過去へとやってきたデロリアンは
ランサーにチェーンソーを振り下ろそうとするバーサーカーを跳ね飛ばし
ランサーの消滅と、遠坂の死という事実を改変した。
「遠坂――!」
右腕は肩から、左手は手首から切り落とされ、出血も尋常ではない。
おそらく本人の魔術による応急処置が施されているのだろうが
素人目に見ても、今すぐに病院に運び込まれて助かるかどうかの重傷だった。
「――――さく、ら――?」
あきらかに焦点の合っていなかった遠坂の目は、そう言うと同時に閉じられた。
「姉、さん――――!」
悲痛な叫びと共に、遠坂の下へと駆け寄ろうとする桜を慎二が制す。
自分の中に、抑え切れない激情が生まれた。
獣のように飛び掛りそうになる体を抑え、搾り出すように声を出す。
「言峰、綺礼――――今すぐ遠坂から離れろ。さもないと――」
「さもないと、どうするのかね衛宮士郎」
言峰はその手に持った遠坂の手首を、倒れる遠坂の顔へと投げ落とした。
「――――今すぐに、殺してやる――――!」
俺は言峰に向け、走り出した。
走っていってどうするかなど、考えてもいない。
今確かなものはただ一つ、あの男を――――殺す。
言峰へと迫る俺の前へ、黒い何かが立ちはだかった。
不気味な呼吸音。
見たことも無い、光沢のある黒い材質で出来た鎧の上に、黒いマントを羽織っている男が、そこに立っていた。
その手には――――黒い闇刃。
黒い刃は驚くほどの距離を瞬時につめ、俺に振り下ろされる。
その黒い輝きを、紅い輝きが受け止めた。
「――いいぞマスター、その目だ――その目が、いつかお前を鉄にする」
「セイバー!」
「行け!この――――」
セイバーはそう言って、黒い男を見る。
「このジェダイは、僕の相手だ」
すぐさま、空気を焼く音と共に激しい剣戟が始まった。
道場で訓練をしていたときとは、比較にならないその速さ。
振るわれる二つの刃が、二人の間の空間を黒と紅の残像で染め上げる。
その剣戟から目を離し、言峰を――――
「一人で行くなこの馬鹿!」
睨もうとしたところで、追いついた慎二に頭を叩かれた。
「あんなの挑発に決まってるだろ!
気持ちは分かるけど、ただ突っ込んでどうする気だよ!死にたいの!?」
「いたっ、なにすんだよ慎二……ってそれ」
慎二はその手にリボルバー式の拳銃を持っている。
どうやらこれで頭を叩いたらしい。道理で痛いはずだ。
「ああ、これはライダーの宝具だよ。お前を止めるにはボクが来る必要があったからね。
ライダーと桜に、ランサーをデロリアンに運び込むよう頼んだら、これを手渡された。
ほとんどただの銃と変わらないみたいだけど、だからこそボクにも使える。それより――――」
慎二と俺の目が、言峰に、そして言峰の足元に倒れる遠坂へと向いた。
「あの糞神父を殺すってのには、ボクも賛成だ」
俺はふいに、慎二に因縁をつけてきていた上級生を相手どって
二人一緒に喧嘩するはめになったときのことを思い出した。
あのときはたしか、ボコボコになりながらも上級生五人相手に奇跡的に勝ちをおさめて
二人で一緒にヘラヘラ笑いながらヨロヨロ帰った。
慎二と別れて自分の家に帰ったら藤ねえがいて
「男の子だったら喧嘩の一つもするわよね、で、勝ったの?」
なんて言いながら、珍しくカップラーメンを作ってくれた。
しょうゆ味が口の中の切り傷にしみて涙が出そうになったけど
美味しさとか誇らしさとかの色々な感情がない交ぜになったものが、俺を泣かせなかった。
一瞬で湧き出た想い出が、俺の心の中から憎しみと殺意を吹き飛ばす。
胸に輝くのは、純粋な、正しい怒り。
隣にいるのは、俺の最高の親友だ。
「ああ――――そうだ。一緒に、アイツをブッ殺そうぜ、慎二」
待ってろ遠坂。絶対に――――助けるから。
懐に忍ばせていた二本の木製短刀を出し、俺と慎二は言峰へと立ち向かった。
1・慎二の援護射撃を受けつつ、遠坂を助け出す。
2・木製短刀を強化して、言峰と斬り合い、慎二に遠坂の救出を任せる。
3・二人で言峰と戦い、スキをみて遠坂の保護をライダーと桜に頼む。